壺草苑

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コラム

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第18回なぜ、発酵させるのか
2022/6/25

藍染とは、藍の葉っぱで青く染める昔ながらの染物で、その染料液は発酵している、ということをご存じの方は多いかと思います。

今回はもう少し掘り下げて、なぜ他の草木染めのように煮出さないのか、どうして発酵させるのかを詳しくお話しします。

まず、藍の葉に含まれる青い色素インディゴは不溶性、つまり水に溶けないという特性があります。一般的な植物染料の色素は水に溶けるため、お鍋で煮出すだけで色素が湯に溶け出し、そこに布を浸すことで草木染めをすることが可能です。しかし藍の色素はいくら煮込んでも、色が出てきてはくれないのです。

ではどうするのでしょうか。そう、ここで発酵菌の力を借りるのです。

インディゴ還元菌という微生物はどうしてだか、生命活動の一環でインディゴ色素を液中に溶かしてくれます(還元)。この微生物が住みやすい環境を整え、増殖させ、色素を溶かしてもらった状態が、藍の染料液です。

意外なことに、藍染の染料液のほとんどはこの微生物が活発に活動するために必要なもので満たされており、色素はほんの少ししか含まれていません。染料液の色が青色ではなく、茶色いのはこのためです。

微生物の活動が活発なほど、色がたくさん溶け出すためよく染まり、衰えて色が溶けなくなってくるとあまり染まらなくなってしまうのが醗酵建ての藍染です。色素の量をいくら増やしたところで、微生物が働かなければただの泥水、ちっとも染まりません。

 

現代ではこういったメカニズムが解明されていますが、この技法が確立された江戸時代以前の人々は、どうして青く染まるのかを理解せずに染めていました。そこに辿り着くまでの試行錯誤や労力、知恵を思うと敬意を感じずにはいられませんし、鮮やかな色彩への欲求の強さを伺い知ることができます。

 

そして、こういった理屈を突き止めた結果、代替法が生み出されてゆきます。

明治時代以降になるとインディゴ色素は石油から合成できるようになり、藍の葉っぱを使わなくても藍染ができるようになりました。更には、色を溶かす力も発酵菌ではなくハイドロといった化学薬品が使われるようになり、現代の多様な藍染の時代に至ります。

皆さんも是非、藍染を手に取る際にはそれがどんな藍染なのか、気にかけてみてはいかがでしょうか。